保健授業における課題学習の導入と実践について(1)
 ―課題学習の意味と意義―

                             本 純一郎(鹿児島)

 <はじめに>

 「保健」の授業は、高等学校では2単位の必修科目として位置付けられ「個人および集団の生活における健康・安全についての理解を深めさせ、個人および集団の健康を高める能力と態度を育てる」ことを目標に行われている。
 しかし、生命と健康を扱う重要な内容を含んだものであるにもかかわらず、軽視されがちな授業となっている現状がある。生徒の息抜きの時間となったり、「雨降り保健」とい言葉も生まれている。
 そこで10年程前から「課題学習」を導入し、その活性化を図る試みが始まった。日本学校保健学会、全国学校保健研究大会などの分科会でも全国の実践例が紹介され、性教育、命の教育、薬物乱用などと並んで話題性のあるものである。
 課題学習についての概要と未熟ながら自らが取り組んだ10年間の実践報告を行い、皆様にご意見、ご鞭撻を仰ぎ、今後の一層の充実を図りたいと存じます。

 <課題学習とは>

 課題学習とは、テーマに基づいて調査、実験、研究を行い、論文やレポート、作品などにまとめて発表するものであり、小学校の夏休みの宿題にある「自由研究」と大学の学士論文の中間に位置するレベルのものと考えていただきたい。最近では、総合学習の一環として「テーマ学習」を取り入れる中学校も出てきている。
 保健の課題学習の方法は、多岐にわたるが次のように分類できる。
 1.教師が生徒にテーマを与えて生徒が研究し、提出・発表する。
 2.1単元(例えば、[環境と健康])で生徒が自由にテーマを決めて研究し、提出・発表する。――主流である
 3.全単元([現代社会と健康][環境と健康][生涯を通じる健康][集団の健康])から生徒が自由にテーマを決めて研究し、提出・発表する。
 4.個人研究かグループ研究か。

 <課題学習の意義>

 課題学習の導入に期待できることとして次の点があげられる。

 1.教師主体の一斉指導授業のマンネリ化を打破できる。
  2.生徒が、主体的に取り組むことにより生命や健康について真剣に考えるようになる。
  3.疑問に対する仮説の立て方、仮説の検証の方法、結果の分析、結論への道筋など科学的な論理的な思考が形成される。
 4.発表や作品を完成させることにより、文章や図表の書き方、論文構成を含めた、いわゆる論文調や論文形式を理解できる。
  5.作品を保存することにより、閲覧が自由にでき、後輩が継続的に研究できる。
  6.参考文献の検索やインターネットによる資料検索の方法が理解でき、著作権についての知識・理解が深まる。


保健授業における課題学習の導入と実践について(2)
 ―S高校における実践の紹介―

本 純一郎(鹿児島)

 <実践の概要>

1.対象:第1学年
2.分野:単元「環境と健康」
3.時間配当:12時間
   第1時 講義「さまざまな環境汚染の現状と対策について」
   第2時 講義「地球規模の環境問題と健康について」
   第3時 講義「課題学習の導入と研究方法について」
   第4時 演習「研究テーマ決定と研究計画を立てる」
   第5時 演習「仮説を立てて、検証の方法を確立させる」
   第6時 
    ↓  演習「研究計画をもとに各自の研究を進める」
   10
   11時 研究発表会1
   12時 研究発表会2
4.研究成果の発表と評価
   ・研究発表会(発表5分、質疑応答・講評5分)
   ・論文の提出(400字詰め原稿用紙20枚以上)
   ・発表会用抄録(B5用紙1枚)

 <指導の実際:指導内容と指導上の留意点>

◆導入
   第1時 講義「さまざまな環境汚染の現状と対策について」
 大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、産業廃棄物などさまざまな環境問題について現状と対策を具体例をあげて説明し、公害の実態などから人の健康は環境によって左右されることを理解させる。
 また、放射能汚染、電磁波障害、環境ホルモン、ダイオキシンなど新たな環境問題にも触れて環境問題についての興味関心を高め、「なぜだろう?」という疑問点を喚起させるような内容にする。
   第2時 講義「地球規模の環境問題と健康について」
 人間社会と自然環境のかかわりを地球的規模でみたとき、生態系の破壊、オゾン層破壊、地球温暖化、人口増大による食糧危機など人間の社会活動、経済活動に起因することを理解させる。
 宇宙船地球号が危機状態に陥っている事実から、かけがえのない地球の存在を地球に住む全生物の共通の課題として特にわれわれ人類の生き方を一人ひとりに考えさせる。
 環境問題こそ、最も重要な人類の問題であり、21世紀に生きるわれわれが何をしなければならないか、何をしたらいけないのかを問いかける。 

◆展開
   第3時 講義「課題学習の導入と研究方法について」
 環境と健康の領域は広く、短期間においてすべてについて理解を深めることは不可能なため「1領域、1分野のオーソリティをめざそう」を合言葉に環境問題、環境と健康に関してテーマを設定して研究を進め、発表し、論文にまとめる。いわゆる課題学習のオリエンテーションを行う。
 論文を書くことが初めてであったり、不慣れな生徒がほとんどなので上達の近道として、関連文献や先行研究を読んで論文の構成、形式、論文調に慣れることを推奨する。
 また、この段階でかなりの質問が出てくるが、今後の展開のために特に丁寧な受け答えが重要である。論文に対する恐怖感や嫌悪感の予防と治療になる。
   第4時 演習「研究テーマ決定と研究計画を立てる」
   第5時 演習「仮説を立てて、検証の方法を確立させる」
 課題学習の最も重要な部分と考えられるが、私たちの日常生活の中で「なぜだろう?」(疑問)→「〜ではないだろうか」(予想)→「〜だった」(確かめ)の手順を繰り返すことと同様に研究も疑問・動機→仮説を立てる→仮説の検証→結論のプロセスをたどることを理解させる。
 研究計画書を作成させ、研究テーマ、動機、目的、仮説、検証の方法をまとめる。同じテーマ、領域の者同士がいればグループ研究を許可する。グループを作ってから研究テーマを決めるやり方は、動機が希薄であり、成功しない傾向にあるので注意したい。
 仮説の検証の方法としては、実験、意識調査、現地調査、文献研究を主とし、オリジナルなデータを持つことを強調する。文献の丸写しなどのレポート形式に流れてしまうことをこの段階では気をつける。
  第6〜第10時 演習「研究計画をもとに各自の研究を進める」
 自由に研究を進めさせる。質問に対してヒントを与え、資料の収集にアドバイスをする。
 学外との交渉や見学、調査などの機会が増えるため礼を失したりする事がないように留意する。また安全には十分な配慮をする。
   11〜第12時 研究発表会
 課題学習の最大の弱点である「他の領域はわからない」を最小限にするために抄録集を作成し、発表会を行う。質疑応答やお互いの講評、指導者の講評の中に他の領域への理解が深まり、お互いに評価することにより興味を示すようになれば効果があがる。


 保健授業における課題学習の導入と実践について(3)
 ―S高校における実践の紹介―

                             本 純一郎(鹿児島)
 

 <指導用配布資料>

1.論文作成にあたって
  論文構成
 「何をどんな順序で」書くのかの悩みを解決するのに、その論文の組み立てを論文構成という作業で行えばスムーズにいく。書物や論文を参考にすれば理解できるが、一般的な科学論文の例を示すので参考にしてほしい。
[論文構成例] 
 各項目の説明省略
 1 序論(はじめに) 
 2 研究方法
 3 本論(結果と考察)
 4 結論(おわりに)
 5 参考文献・引用文献

2.課題学習研究計画書(B4版1枚)
 記入項目   □研究テーマ
           □研究者氏名(個人でもグループでも可)
           □研究の動機・目的
           □仮説
           □仮説の検証の方法(研究方法)
           □研究のスケジュール
           □参考文献

3.原稿用紙の使い方
 1 見出しの数字の使い方の例
 2 図や表の書き方と題と番号の付け方
 3 文中の数字や記号の書き方
 4 参考(引用)文献の記載の仕方と記載例

4.発表会用抄録の書き方
 抄録の書き方を具体例を示して統一させる。

 <領域別作品集>

 生徒の作品を領域別に次のように分類できる。分類といくつかの研究テーマをあげてみる。社会問題になっていることやマスコミで取り上げられていることに関するテーマが多くなる傾向がみられ、継続的に受け継がれているテーマもいくつかみられる。

〇大気汚染
 * オゾン層の破壊について
 * 酸性雨の原因と対策について
 * 地球温暖化の現状と今後の課題について
 * 車の排気ガスと健康について
 * 大気中の塵埃について
 * 火山(桜島)とともに生きる私たち

〇水質汚濁
 * 生活廃水と川の汚れについて
 * ナホトカ号事件から学ぶこと(海洋汚染とその被害)
 * 飲料水のおいしさと安全性について
 * 深刻化する水不足事情
 * 水道水の安全性について(トリハロメタンと健康への影響)

〇公害
 * 水俣病の原因と健康被害について [地域柄、多数あり]
 * 鉄道の騒音と振動について

〇土壌汚染
 * 土の汚染が健康におよぼす影響について 
 * 土の汚染と農作物の安全性について

〇放射能
 * チェルノブイリ原発事故と健康被害について
 * 原子力発電所の安全性を考える

〇ごみ問題とリサイクル
 * ダイオキシン汚染について
 * 環境との調和をめざす自動車のリサイクル
 * ごみ処理場の実態と問題点について
 * 人や環境にやさしい製品作り(企業の取り組み)
 * 現代のごみ事情
 * ねずみ、ハエ、そしてごみ問題
 * ごみの分別とリサイクル
 * プラスチックごみの処理の実態について

〇自然破壊
 * 森林減少と沙漠化について
 * 絶滅する動物たちの叫び
 * 宅地の造成と洪水発生の関連について

〇エネルギー問題
 * 未来のエネルギー源供給の方策について
 * 原子力発電による方法がベストなのか?

〇その他
 * 環境ホルモンと人体への影響について
 * 電磁波が人体に与える影響について
 * 地球の人口問題に関する一考察
 * 食の未来について
 * 農薬の使用と作物の安全性について

■ 保健授業における課題学習の導入と実践について(4)
        ―S高校における実践の紹介―
                    本 純一郎(鹿児島)

 <作品集:大気汚染(1)>
 
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          車社会と大気汚染
        
         研究者:上村・瀧井・津下・花田(平成8年度)
【はじめに】
 自動車は人間の自由な移動手段として個人生活においても産業活
動においても不可欠な道具になっている。これは自動車の便利さ、
快適さ、自由さ、扱いやすさと言う特長が現代社会のニーズにうま
く適合したからにほかならない。動力や冷暖房、カーオーディオ、
照明、便利さや快適さにはたいていエネルギーの消費がつきものだ。
自動車では、これらのエネルギーのすべてをエンジンが供給してい
る。われわれはエンジンを使って、簡単に燃料が持っているエネル
ギーを動力や熱の形で取り出し、その一部を電気に変換し、目的に
応じて多様に利用している。
 このエネルギー変換システムは、一方で環境問題の原因の一つに
もなっている。
【研究内容】(抜粋)
☆排ガス規制の歴史 ――NOx(窒素酸化物)対策の経緯――
1968年 大気汚染防止法に基づく自動車単体に対する排ガス規
      制の促進
1978年 経済界からの要請によりNOx汚染のための排ガス規制
      の2〜3倍の緩和
      これによりNOx汚染の悪化
1992年 自動車NOx削減特別措置法の制定
      1.総量規制
      2.流入規制
      3.車種転換
      これらに対して通産、運輸、警察等の反対にあい、1
      と2が削減され法律の骨抜き化が進んだ。
☆自動車の開発と大気汚染対策
・低公害車
 現行のディーゼル車、ガソリン車に比べて、大気汚染あるいは地
球温暖化物質と言われる二酸化炭素、窒素酸化物などの排出量の少
ないメタノール、天然ガス、水素、電気、ソーラーなどを動力源と
する自動車のことで、現段階ではガソリン車の性能と相当な開きが
あり一般的に普及するには時間を要するとみられる。
 都心部あるいはリゾート地において無公害車しか走れない地域を
つくり、これを少しずつ広げていくのが実用的だといわれている。
・ロサンゼルスの自動車
 自動車王国ロサンゼルス地域では、80年代後半から大規模な大気
汚染対策が実施されている。全米最悪の環境汚染地帯であり、モー
タリゼーションが進展した結果、交通渋滞が慢性化しており、東方
を山で囲まれ、スモッグが逃げられないような地形が、晴天の多い
気候と相まって大気汚染をより深刻な問題にしていた。
【まとめ】
 大気汚染の原因のほとんどが、車社会化に起因することが理解で
きた。今後の研究により、自動車に何が要求され、どんな改良がな
されるべきか、また、地球環境問題、エネルギー問題などの難題を
解決すべく、日夜厳しい研究開発が繰り広げられていることを強く
感じた。
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<講評>
 大気汚染の原因が、車社会化に伴う自動車の増加にあると着目し、
排ガス規制の歴史や低公害車の開発の現状を研究している。
 自動車先進国、アメリカの大気汚染対策を知ることにより、わが
国の大気汚染対策と対比して考察している点が評価できる。まとめ
において環境問題に対して研究がかなり進んでいる現状を報告して
おり、現在のハイブリッド車の登場と普及を予告しているかに思え
る。

■ 保健授業における課題学習の導入と実践について(5)
        ―S高校における実践の紹介―
                    本 純一郎(鹿児島)

 <作品集:大気汚染(2)>
 
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         ☆車社会と大気汚染☆
       ―乗用車とバスの比較を中心に―
        
              研究者:福徳 清和(平成7年度)

【はじめに】

 現在は、一家庭に最低1台の車を持つほどの「車社会」である。
しかし、この車社会が環境に及ぼす影響というものは、想像もつか
ないほど大きなものである。
 そこでこの車社会と地球の環境を考慮した車との付き合い方につ
いて乗用車(普通車)とバスの比較を中心に考えていきたい。

【研究内容】

☆普通車とバス
 普通車と言っても、種類は多い。一般に排気量で区別されている
が、多く出回っているのが、660cc級の軽自動車、2000cc、3000cc
級の普通自動車である。これらの乗車定員は4〜9名である。
 バスにも普通車同様、多くの種類がある。マイクロバス(24人乗
り)、中型バス(52人乗り)、大型路線バス(76人乗り)等である。
メーカーによってエンジンの種類が違うこともあって、排気量の若
干の違いがある。
 ここで大型路線バス1台に乗車できる76人が、乗用車に分乗すると
したら、2500ccの9人乗りワゴンタイプで9台が必要となる。9台分の
排気量は22500cc、2000ccの5人乗りで16台、排気量は32000ccとなる。
バス1台の排気量は、三菱MPの場合、11140ccなのでその差をみる
と前者はバス1台、後者はバス2台分に相当する。
 車の排気ガスには、一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物、黒鉛等
の有害物質が含まれ、大気汚染の中心的な原因になっている。排気
量が多ければ多いほど、これらの有害物質の排出量も当然多くなる。
 バスは路線や時間帯によって乗客数は違うので一概にバスのほう
が「環境にやさしい」とはいえないかもしれないが、朝・夕のラッ
シュ時にはたいへん有効な交通手段といえる。バスを利用すること
により、車の量が減り、交通渋滞が緩和され、排気ガスの排出も減
り、環境にも都市の交通にも有益であろう。 

☆バス製造業界の大気汚染対策
・アイドリングストップ&スタート装置
 都市部を走る路線バスは信号待ちや乗降客扱いによる停車時間は
かなり長い。運行時間の約半分がアイドリング状態で停車している
といわれている。この停車時間の排気ガスの排出を減らそうという
ことで創り出された機能が「アイドリングストップ&スタート装置」
である。初めて実用化した、いすゞ自動車の調査によると停留所や
信号で発進・停止が繰り返される運行で5%、渋滞等でアイドリン
グ時間が比較的長い運行では10%のNOx削減と燃費改善効果が認めら
れた。
・ディーゼル・電気ハイブリッドバスと蓄圧式ハイブリッドバス
 エンジンに三相交流モーターを取り付け、バスが減速するときに
これを発電器として用いることで、発進・加速時のエンジンの動力
補助をするようにしたバスである。これを取り付けている日野自動
車の「ブルーリボンHT、HU」では、従来のバスと比べてNOx濃
度が20〜30%、黒煙濃度は70%減少という、めざましい結果を樹立
している。しかし、充電が必要であり、バッテリーの処分も問題と
なる。
・エムベックス2
 三菱ふそうが開発したもので、エンジンとトランスミッションの
反対側に油圧装置と窒素ガスを充填したアキュームレータ2本が置か
れているだけのものである。これは排気系に「酸化触媒」がとりつ
けられており、燃えそこなった軽油の成分が固まったPM(パーテ
ィキュレート)を酸化することができる。エンジンの動力を補助す
るため黒煙濃度は50〜70%低減される。

【まとめ】

 バス1台の排気量は乗用車1台のそれに比べて、大きい。だが、バ
スには大量輸送という利点がある。また、バス業界でもできるだけ
環境にやさしいバスをということで上述のような対策をとって有害
物質の削減に努めている。バスを利用することが交通状況を良くし、
全体的な排気ガスの排出量の削減になる。環境を守ることの第一歩
は有効な交通機関の利用にかかっているのである。
============================================================
<講評>
 バスという大量輸送が可能ながら、排気量の大きい車種に着目し、
その有効性を探り、バスの環境対策について述べられている。
 ディーゼル車は、大気汚染の根源のように取り扱われているが、
少量しか輸送できない乗用車に比べて、人や物資を多量に輸送でき
る利点を生かすためにも今後の環境対策がより重要であることを提言
している点は高く評価できる。

■ 保健授業における課題学習の導入と実践について(6)
         ―S高校における実践の紹介―
                    本 純一郎(鹿児島)

 <作品集:大気汚染(3)>
 
============================================================       
     ☆大気中の塵埃(じんあい)について☆
   ―簡易測定法を用いた塵埃数の比較を中心にして―
        
        研究者:木原 白石 園田 永田(平成8年度)

【はじめに】

 大気中の塵埃は、暗い中で太陽の光やスポットライトの光が空気
中を横切っているときに目に見えるものの普段はなかなか見えない。
しかし、呼吸においては見える見えないに関係なく酸素とともに体
内に吸い込んでいるのである。からだにはフィルターの役割をする
部分はほとんどなく、いかなる物質であっても無防備状態でひとり
で1日に11KLほどのガス交換とともに入ってくるのである。
 そこで室内や屋外の塵埃を環境の状態別に測定し、比較すること
より塵埃の少ない環境づくりのための一資料とするために以下のよ
うな測定法を用いて研究を行った。

【測定方法】

☆塵埃の測定
 「学校環境衛生の基準」によると教室における塵埃の測定は、
「特別な場合のほかは教室の中央1ヶ所で、ろ紙じんあい計を用い、
直径1cmのろ過面で30Lの空気を約10分間で吸引し、光電比色法
によって吸光度を測定する」とあり、「吸光度が0.1以下であること
が望ましい」という判定基準が掲げられている。
 しかし、ろ紙じんあい計では量は測定できても塵埃の種類までは
判別できない。また、身近に検査器具も置かれていない。

☆簡易測定法
 そこでもっと簡単で量も種類も判別できる測定法を模索した結果
以下のような方法を試行した。
 1.プレパラート(顕微鏡観察用のガラス板)にセロハンテープ
  の粘着面を表にして貼り付ける。
 2.そのプレパラートを手に持っていろいろな環境条件のもとで
  100回振る。
 3.顕微鏡で150倍の倍率で観察して、付着した塵埃の数を数え、
  スケッチする。5回、視野をかえて数え、平均値をとる。
 ※ プレパラートの取り扱いは、測定前後の塵埃を付着させない
  ように細心の注意を払う。

【おもな結果】
============================================================
 測定場所と環境条件   塵埃の数     備考(特長など)
============================================================
 授業中の教室前側     128      チョークの粉
――――――――――――――――――――――――――――――
 授業中の教室後側      71
――――――――――――――――――――――――――――――
 清掃時間の教室      144
――――――――――――――――――――――――――――――
 休み時間の教室      232      測定中最大値
――――――――――――――――――――――――――――――
 雨天の屋外         10      細かい粒子
――――――――――――――――――――――――――――――
 土のグラウンド       64      花粉も混じる
――――――――――――――――――――――――――――――
 アスファルト道路      58
――――――――――――――――――――――――――――――
 陸橋の上          40      高さ10m
――――――――――――――――――――――――――――――
 トンネルの中        68
============================================================

【考察】

 測定結果は、だいたい予想通りの値が得られた。
 教室においては黒板とチョーク使用ということから前側でチョー
クの粉が多く観察された。特に休み時間の測定値が最大になったこ
とは、黒板を消した直後にかなりのチョークの粉が、空気中に舞っ
ていて、落ち着くまでかなりの時間を要することがわかった。
 屋外においては、雨の日はほとんど観察されないが、風の強い時
や地面が土の場合、多い値を示した。また、色のついたものが観察
されたが、倍率を上げてみると花粉であった。

【まとめ】

 大気中の塵埃について簡易測定法を用いて環境条件の違いによる
量と種類を観察した結果、教室内においてはチョークの粉を主に屋
外に比べて多く観察された。教室の換気をこまめに行う重要性と黒
板とチョークに変わるホワイトボードとマーカーの使用が望ましい
ことがわかった。
 屋外においては、天候との相関関係があげられ、花粉が観察され
たことからスギ花粉症の予防のためにスギ花粉の観察法としてもこ
の検査法は有効であることがわかった。
 
============================================================
<講評>
 今回、用いた検査法は、見えにくい大気中の塵埃を顕微鏡を使用
して量と種類を観察しようとした、一見、非科学的な方法のようで
あるが、結果を見るとかなり有効な塵埃測定方法と思われる。
 じんあいの検査が環境検査の中では、困難なものの一つであり、
軽視や回避されやすい項目でもあるので今後の確立された検査法が
待たれる。
 清掃時間の前後や清掃方法の違い(掃く、拭く、吸い取るなど)
による観察結果があると、清掃のあり方にも言及できるのではない
だろうか。