「科学ジャーナリストからの報告――環境問題はいま」
                                             鹿児島県・志學館中等部・高等部で
                                             2000・7・11 毎日新聞論説委員 横山裕道
<はじめに>
・温暖化をはじめとする地球環境問題は深刻さを増しつつある。世界的にあと10年から20年で異常気象のひん発、
 食糧不足、難民の増加など具体的な影響が現れるだろうという見方が出ている。自然の破壊によって野生生物の
 絶滅も予想外のスピードで進んでいる
・公害とは違って地球環境問題は一般の人が被害者であって加害者でもあるという二重の側面を持つ
<地球温暖化問題のトピックス>
・専門家の集まりの「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は  1995年11月、「最近の地球の温
 暖化傾向は人間活動がもたらした」と指摘するとともに、このままいくと2100年には地球の平均気温は
 約2度(1〜3・5度)上昇し、地球上の海面は平均50センチ(15〜95センチ)上昇するというショッキング
 な報告書を採択した
・1997年12月に地球温暖化防止京都会議が開かれた。2008年から2012年の先進国全体の温室効果ガ
 ス排出量を1990年比で少なくとも5%削減することを明記した京都議定書を採択。日本6%、米国7% 、
 欧州連合(EU)8%という厳しい国別削減目標も決まった
・京都議定書は地球温暖化防止に向けた第一歩となるが、途上国の自発的参加をうたえないなど積み残された課題は
 多く、その後の発展もない

<ダイオキシン騒動の教訓は>
・テレビ朝日系の人気ニュース番組「ニュースステーション」が1999年2月、「埼玉県所沢市の野菜のダイオキ
 シン濃度が高い」と報道した のをきっかけに行政がダイオキシン対策に乗り出した
・政府はダイオキシン対策関係閣僚会議を設け、ダイオキシンを一生摂取し続けても健康に問題が生じない値を決めた。
 ダイオキシン類対策特別措置法が今年1月に施行され、大気、水質、土壌の環境基準も決まった。さまざまな規制に
 よってダイオキシンの排出量は徐々に下がっている

<気になる環境ホルモン問題>
・ダイオキシンやPCB、DDT、合成樹脂原料のビスフェノールA、船底塗料に含まれる有機スズなどが体内に入る
 とホルモンに似た働きをして内分泌機能を阻害し、生殖や発育を妨げることが分かった。環境ホルモンと呼ばれ、
 「人類の未来を脅かしかねない」と問題になっている

<損なわれる生物の多様性>
・中国から昨年1月に日本に贈られた国際保護鳥のトキのつがいが新潟県佐渡トキ保護センターで飼育され、これまで
 に3羽のひながかえった
 日本産トキは高齢のメス1羽が残るだけで絶滅は確実になったが、環境庁は「いつの日か日本の山野に野生のトキを復活
 させたい」と考えている。
・トキ以外にもクマタカ、イヌワシ、メダカなど日本から姿を消しつつある動植物は多い。人間が自然を破壊し生物の
 生存を危うくしている

<ごみ問題とリサイクル>
・1年間に全国で産業廃棄物が4億トン、一般廃棄物が5000万トンも出ている。廃棄物を限りなく減らして再利用
 を徹底させようという循環型社会形成推進基本法が今年5月に成立した 
          
<その他の環境問題は>
・ オゾン層の破壊で届く有害紫外線
・ 生物の宝庫である熱帯雨林の破壊
・ 急速に進む砂漠化
・ 国境を越える酸性雨
・ 大気汚染、干潟の干拓、地下水汚染など

<どうしたらいいのか>
・このままでは地球は間違いなく破滅に向かう。国際的な取り組みが重要だし、国内では政府も自治体も、企業も国民も
 一層の努力が必要だ 
・車の使用制限などライフスタイルの全面転換が欠かせない。資源やエネルギーを無駄遣いしないことが環境保全に重要
 な意味を持つ
・環境・エネルギー教育の重要性。周囲にまだ残る自然や多様な生物に日ごろから触れ、そのままの形で後世に引き継ぐ
 ことを考えたい