水資源の不足は深刻な環境問題だ
 地球環境問題といえば、温暖化やオゾン層の破壊を考える。しかし、現在の人類はもっと深刻ともいえる環境問題に直面している。水資源の問題である。「湯水のように使う」という表現の通り、季節的な問題はあるが、日本では水問題に対する関心が薄い。ところが世界に目を向けると、水不足こそ最も早急に手当てが必要な問題になっている。

 国連大学の冊子によると、1人当たりの水供給量は1970年ごろの3分の1まで減少したそうだ。このため、安全な飲み水を確保することが難しい人の数が10億人を超えているという。2025年になると、この数字が世界人口の3分の2にまで増えるとの予測がある。開発途上地域では、汚染された水が原因で毎年12億人が病気にかかり、400万人の子供が亡くなっている。

 中国第二の大河である黄河は、ここ10年ほど毎年のように、乾期になると干上がって水が流れない。ひどい年には年間の3分の2も干上がった状態が続いた。インドのガンジス川も、乾期に水が海まで流れないことがある。世界で有数の湖であるアラル海は、水不足のために面積が減少し、往時の半分以下になった。

 飲み水の不足は、人口の増加や河川などの汚染が原因だ。河川や湖水の枯渇は潅漑(かんがい)による過剰利用が原因と考えられる。ここに挙げた例は一部に過ぎない。

 水が無ければ、生物は生きられない。人間も例外ではない。清潔な飲み水の確保は、他の環境問題より緊急性が高い。世界の農業の20%近くは潅漑に依存しており、潅漑用水の不足は食糧生産の危機に直結する。国境を越えて流れる川の流域では、昔ながらの水争いが、国家間の紛争の種になっている。

 1997年の国連総会では、開発途上国の水問題を最優先課題にすることが求められた。このままでいくと、水問題が現実の国際紛争を起こしかねない。もちろん、人権という視点からも見過ごすことはできない。水に恵まれた日本人にとって実感は薄いかもしれないが、先進国としてこの問題に対しても、誠意ある取り組みが必要である。

 下水処理技術、循環利用の技術、海水淡水化技術、砂漠の緑化技術など、日本の技術が水不足に悩む人々に役立つ可能性は大きい。これらの技術移転も含めて、日本に何ができるかを十分考え、具体的行動に結びつけたい。(日本経済新聞10/17社説)